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第8回「睡眠中に起こる暴力」

74歳になる主人は、もともと寝言が多かったのですが、1年くらい前よりまるで喧嘩でもしているかにように大声を出すことがあります。
それだけでなく、隣に寝ている私に叩きかかることさえありますので、別の部屋で寝ています。
翌日にそのことを主人に話しても何一つ憶えていません。呆けの始まりか、それとも奇病にとり憑かれたのではないかと心配です。
(70歳、女性)

回答

「レム睡眠行動障害」の可能性が高いのですが、この病気が初めて報告されたのは10数年前のことで、医師の間でもまだ広く知られておらず、夢遊病や夜間せん妄と誤診されたり、ストレスのせいにされることが少なくありません。
睡眠障害の専門医を受診したほうがよいでしょう。

 この病気は、普段は滅多にみない喧嘩する・争う・対決する内容の現実的な夢をみることが多くなり、激しい寝言を言うといったことから始まることが多いようです。
そして、そうした夢を見た時に限って荒々しい口調の大声を発したり、手足をばたつかせたり、隣で寝ている者を殴ったり、起き上がって窓や家具を叩いたりするなどの暴力的な行動が起るのです。
この異常な行動の最中に覚醒させると、ほとんどが「喧嘩している夢をみていた」、「強盗を追い払っている夢をみていた」などと答えます。
そのことからもわかるように、まさに夢の中での行動であり、それがこの病気の症状を特徴づけるものです。

 先にも述べたように、子供によくみられる夢遊病に似ていますが、夢遊病と違って比較的簡単に覚醒させることができる点で違いがあります。
また、この病気は中高齢者の男性に多く見られますが、せん妄も高齢者に多く、両者を区別することが必要です。
せん妄と違って睡眠から直接に比較的急激に起ります。ストレスは関係しても、直接に原因となるものではありません。

 睡眠はレム睡眠とそれ以外のノンレム睡眠の2種類からなっています。
レム睡眠という名前は、急速な眼球運動が起ることから名づけられたのですが、レム睡眠が夢をみる眠りであることはよく知られています。
私たちは夢をみてもベッドから飛び起きたりしないで、何の危険もなく安らかに夢をみるのですが、これはレム睡眠の時は体を動かす筋肉の緊張が消失しており、いわゆる運動麻痺の状態にあるからなのです。
 一方、レム睡眠行動障害は、何らかの原因でレム睡眠でも骨格筋の活動に麻痺が起らなくなり、そのために争うなどの夢を見たときに夢の行動化が生じるのです。
半分以上は病気の原因はわかっていませんが、中には脳の病気で起ることもあります。
また、将来パーキンソン病やレヴィ小体型認知症を発症することが少なくありません。