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第10回「金縛り(かなしばり)の恐怖」

高校1年の頃から、眠りに入る直前の意識はまだはっきりしている中で、足音が聞こえ、何者かが部屋に入ってきて身体の上に乗り、窒息しそうになる恐ろしい体験をするようになりました。
2-3分すると、体の麻痺はとれ、何事もないいつもの状況に戻ります。2-3ヶ月に1回、多いときは週に2-3回起こります。精神病の症状なのでしょうか?
(17歳、男子高校生)

回答

これは覚醒と睡眠の移行期(眠りがけ、まれに起きがけ)に起こる「入眠時幻覚を伴う睡眠麻痺」と呼ばれる現象であり、一般には「金縛り」と呼ばれています。
必ずしも異常な現象ではなく、われわれが行った1万人を対象にした調査では、16歳前後で始まることが最も多く、約半分の人が一生の間に1回以上を体験していました。
但し、昼間に強い眠気を生じるナルコレプシーという病気では金縛りが頻回に出現することがあります。

 眠りはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類からなっていますが、ノンレム睡眠が通常の眠りであるのに対して、レム睡眠は夢を見る眠りです。
レム睡眠の時は、脳はむしろ活動的で、眼球が素早く動き、脈拍や呼吸数が増加します。
また、筋肉の緊張が完全に弛緩しており、体は麻痺した状態にあります。夢をみても行動を生じないのはそのためなのです。

 通常の眠りはノンレム睡眠から始まり、最初のレム睡眠は入眠から約90(60-120)分後に出現し、以降も同じ間隔で出現します。
これが何かのミスでレム睡眠から眠りが始まると、入眠時幻覚や睡眠麻痺(金縛り)が起るのです。
つまり、入眠直後にレム睡眠が起きると、主観的にはまだ覚醒していると認識しているために、筋肉の緊張消失による運動麻痺を金縛りとして体験し、夢の要素である視覚的な映像を幻覚として体験するのです。
さらに通常の夢見と違って、化け物が覆いかぶさるなど窒息感を伴う恐ろしく生々しい体験であり、体の動きが封じられているために、助けを求めようにも声は出せず、逃げようにも動くことができません。

 金縛りは、夜更かしや夜勤などの不規則な睡眠・覚醒スケジュールの生活やストレスで誘発されやすく、また若い人に多く出現し、仰向けで寝ると起りやすいこともわかっています。
決して心霊現象や何かにとり憑かれているわけではなく、生理学的な説明がつく現象です。
質問者は昼間の強い眠気はないようですのでナルコレプシーではなく、規則正しい生活に努め、ストレスをうまく処理して、横向きに寝れば、金縛りの頻度は年齢とともに減っていくと思われ、治療の必要はないでしょう。
また、この症状のみで他に症状がなければ精神病に進展する心配はありません。