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第16回「夜になるとおかしくなる老父」

80歳になる舅のことです。この頃毎晩のように午後9時を過ぎた頃から、落ち着かなくなり、自宅に居ながら「家に連れて帰ってくれ」、「誰か来ている」などと言い、外に出ようとします。制止しても全くききめがありません。 翌日はそのことを覚えていません。昼間は少し物忘れがあるくらいで特におかしな行動はありません。
(50歳、主婦)

回答

これは「夜間せん妄」と呼ばれるもので、高齢者、脳や体の病気がある時にしばしばみられます。
せん妄の最中は、思考、記銘、見当識の認知機能が障害されて おり、幻覚や妄想を伴うことも多く、意識も障害を生じている状態です。
そのために自分と周囲の関係や自分が置かれている状況が正しく認識できずに、困惑して落ち着きなく動き回るなど、状況にマッチしない行動をとります。
異常な行動を制止しようとすると抵抗し、ひどい場合は興奮状態になり、家族は手に負えなくなることもしばしばです。
幻覚は幻視(実際にはない物が見える)が多く、架空の対象物を掴もうとする行動がみられたり、錯覚が生じてヒモを蛇に間違えて怯えたりします。

 せん妄は、一日の中でも症状の出現や強さに時間的な変動があり、夕方から夜にかけて症状が出現し、だんだんひどくなります。
そのために夜間は不眠状態で 過ごし、昼間にうとうとして、昼夜逆転状態になることがあります。
原因としては、先に述べたように、脳の病気や身体病や脱水があるとき、高齢で認知症があるときなどにみられますが、環境要因も無視できません。
入院、引越し、家族の不幸、心的外傷などが誘引になることがあります。
また、パーキンソン病治療薬など、せん妄が出現しやすい薬もありますので注意が必要です。

 対策と治療としては、できるだけストレスになるようなことを避け、低栄養や脱水にならないように気をつけるべきです。
他に家族ができることとしては、昼間はできるだけ眠らないようにして、話しかけたり、散歩に誘ったり、太陽光を浴びるようにした方がよいことがわかっています。

 それでも改善しない時は身体や脳に病気がないかをチェックするために専門医を受診した方がいいでしょう。
また睡眠薬によっては、かえってせん妄がひどくなることがありますので注意が必要です。新しいタイプの抗精神病薬を少量使用することで効果がみられることが少なくありません。
最近、せん妄では生体リズムの異常があることを指摘する研究者もいます。
生体リズム障害の治療に使われる人工的な明るい光の照射でせん妄に効果があった例が報告されており、場合によっては試みるのもよいでしょう。