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第1回「眠らない、眠れない、眠い」

「巨大タンカー・エクソンバルデス号の原油流出事故、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発、チェルノブイリやスリーマイル島の原子力発電所事故 ― 実はこれらの災害や悲劇のかげに睡眠の問題が隠されている。
まさか、と思われるだろうか? 睡眠は人生のおよそ3分の1を占め、覚醒時の生活にも大きな影響を与えている。だが、それにしても、私たちは眠りに関してあまりにも知らなさ過ぎるのではないだろうか」。

これは、スタンフォード大学睡眠障害センターのW.C.デメント所長の言葉です。

 米国では3人に1人が何らかの睡眠に関する問題を抱えていることが明らかにされていますが、眠りの良し悪しは単に睡眠の問題というだけでなく、1日の残りの3分の2の思考、行動を支配しているといっても過言ではありません。
眠れない、眠らないことによる昼間の眠気や作業能力の低下は、事故・災害ひいては経済的損失にも繋がるものです。
米国政府は、睡眠障害の重要性を啓蒙し、その早期発見、治療を促進するとともに、睡眠に関する知識の普及を目指して、1990年に、”Wake up, America!”のキャンペーンを展開しました。
睡眠医療先進国の米国では、既に数百ヶ所に睡眠障害治療センターが設立され、専門的な医療が行われています。

 一方、わが国も約4-5人に1人が睡眠の問題を持っていることが疫学調査で示されていますが、残念ながら、睡眠医学の専門的な教育を受けたスタッフによって睡眠障害治療が行われている施設はまだ少ないのが現状です。
睡眠医学の講義をカリキュラムに持つ医学部すら数少ないのが現状である。
日本における睡眠研究は決して日が浅いわけではなく、多くの優れた研究者を輩出していますが、睡眠障害の診断と治療という点では米国にかなりの遅れをとっているのは否めません。
そこで、日本睡眠学会は、2002年より睡眠障害診療に関して認定制度を発足させ、認定医師・認定歯科医師・認定検査技師が誕生し、さらに、全国の83施設が認定医療機関として睡眠医療を行なっています。(平成23年10月現在)
これを期に、わが国でも睡眠障害に関する専門的な診療を提供できるようになってきています。

 睡眠障害にはさまざまな種類があり、しかもその原因になる疾患は90以上あります。中でも、精神生理性不眠・睡眠時無呼吸症・睡眠覚醒リズム障害・睡眠時異常行動などはその代表的なものです。
次回からは、十数回にわたり、これらの病気を中心に、実際の例を通してQ and Aの形式でわかりやすく説明を加えていきます。